有害事象の叙述を英語で書く(2015年AMWA総会の参加報告)

今年も米国メディカルライター協会(AMWA)年次総会に参加して来ましたので、早速報告いたします。今年の総会は10月1~3日にテキサス州サンアントニオで開催され、創立75周年を祝う記念の会でした。アメリカには75年以上も前からメディカルライティングの概念が存在していたとは驚くばかりです。

日本からの参加者は例年より少なく15名弱でしたが、アメリカ駐在の日本人会員の方も数名参加なさっていました。内訳は、国内製薬企業のメディカルライターや翻訳者の方が大部分を占めていましたが、フリーランス医薬翻訳者の方もいらっしゃいました。また、今年は初参加の日本人会員が多く、私のように長年参加している会員との二極化が特徴的でした。会期中には、恒例の日本人参加者中心の夕食会を開催し、今年も親睦を深めながら有益な情報交換を行うことができました。

AMWA年次総会は多種多様な「ワークショップ(総会参加費とは別料金・事前申込必要。修了単位取得可)と「オープン・セッション(追加料金・事前申込不要。修了単位付与なし)が特徴的で、今年も新たなワークショップとオープン・セッションがいろいろ追加されて目移りしました。

今年初めて開催されたワークショップの1つは、治験総括報告書(CSR)の「有害事象(AE)の叙述(narrative)」の書き方でした。叙述は、「narrative writing」という特殊なスキルと臨床知識が必要であり、CSRの中でもライティングや翻訳が難しいセクションなので、これまで叙述のワークショップがなかったのが不思議なくらいです。

日本からの参加者のうち、私も含めて5名がこのワークショップに出席しており、英語の叙述の書き方を学ぶニーズの高さと、国内で学べる機会や教材の少なさを示唆しているように思いました。これは国内の英文MW教育の課題の1つと言えるでしょう。

本ワークショップは初開催のせいか、内容は初心者向けで、ICH E3ガイドラインで推奨されている叙述の記載項目など、基本的な事柄から講義は始まりました。終盤では、短い叙述例を複数使って各例の書き方の問題点と改善法を学び、テンプレートの例も提示され、実践的な内容になっていました。

一昨年のAMWA参加報告に書いたとおり、欧米では叙述作成を自動化している製薬企業・CROが増えていますが、AMWAの年次総会で叙述の書き方のワークショップが新たに設けられたということは、依然として人間によるライティングやチェックが欠かせないからだと思われます。ワークショップの講師も「叙述では症例ごとに当該有害事象に関連のある症状や臨床検査データ等のみを適切に選んで書くことが重要」と強調していたので、治験や臨床等の専門知識と経験を十分兼ね備えたメディカルライターやreviewerの判断力に負うところが、やはり大きいのではないかと思いました。

しかし、ワークショップの講師によると、有害事象や副作用の「narrative writing」に関する本はないそうですし、叙述関連のガイドラインはICH E3ガイドラインと、FDA CFR Title 21中のSection 312.32「IND Safety Reporting」の2つのみとのことです。
http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/CFRSearch.cfm?fr=312.32)。(ICH E2B(R2)~(R3)ガイドラインも叙述の参考になると思います)

したがって、有害事象の叙述や副作用報告書の英文ライティング・英訳に携わる方々は、これらのガイドラインすべてに目を通しておくだけでなく、英語で書かれた症例報告論文をインターネットで多読したり、拙著『薬事・申請における英文メディカルライティング入門』シリーズ第3巻(臨床経過の書き方)(2019年4月絶版)を読んだり、Targeted Regulatory Writing Techniques: Clinical Documents for Drugs and Biologicsに掲載されている有害事象の叙述例(94頁)を参照したりして、英語の「narrative writing」の知識とテクニックを学ぶと良いと思います。

AMWA年次総会のオープン・セッションについては、次回ご報告します。

参考:過去のAMWA年次総会参加報告
・第69回(2009年)年次総会(http://www.jmca-npo.org/link/201001.html
・第73回(2013年)年次総会(http://www.clinos.com/blog/?m=201312

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